東京高等裁判所 昭和54年(ラ)1422号 決定
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。
二当裁判所の判断
抗告人らの本件仮処分申請の当否について検討するに、当裁判所も、右申請は保全の必要性について十分な疎明がなく、保証をもつてその疎明に代えることも相当でないので、これを却下すべきものと考える。その理由は、次のとおり附加するほか、原決定が理由として説示するところと同じであるから、その記載を引用する。
1 抗告人らの申請にかかる仮処分の骨子は、相手方が本件ゴルフ場の営業を行うことを停止し、執行官又は裁判所の選任する者を管理人として右営業を管理させる点にある(以下このような仮処分を「本件仮処分」という)。抗告人らも指摘するように、仮処分の方法として管理人(保管人)を置くことができることは民訴法七五八条二項に規定するところであり、実際にもそのような事例はしばしばみられるところであるが、その対象とされるのは通常は個別的な特定の財産であつて、管理人(保管人)の任務は単にその特定の財産を現状のまま保存することに止まる。ところが、本件仮処分の場合管理の対象となるべき「営業」は、一定の営利目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の集合体であり、それを組成する個々の財産の変動にかかわらずその同一性を保持する動的な存在である。管理人を選任してそのような営業を管理させるということは、暫定的にせよ当該事業の経営をその管理人に委ねることにほかならず、対象となる営業の種類、規模、財産状態等のいかんにより程度の差はあるにせよ、管理人には事業経営についての相当の知識、経験、信用等が要求され、管理の成否は管理人のそのような力量により左右されることが大であつて、営業の管理について、単純な特定財産の管理(保管)と同視しあるいは安易な類推をすべきでないことは明らかである。
2 かくて、本件仮処分には、商法二七〇条一項の規定による代表取締役の職務代行者選任等の仮処分(以下「商法上の仮処分」という)との類似性が認められるのであるが、原決定の理由中にも述べられているように、本件仮処分は商法上の仮処分のようにその要件・効果等を具体的に定めた法規に基づくものではなく、また、本件仮処分の効力の及ぶ範囲は特定の営業の範囲に限られ、商法上の仮処分のように債務者(当該会社)の業務執行全体にわたるものではないから、本来債務者の業務執行を担当する者と本件仮処分による営業の管理人との職務権限の限界が実際上明確を欠くおそれがある。また、より基本的な相違点として、商法上の仮処分における職務代行者は暫定的にせよ当該会社の機関であつて、その対外的行為は当該会社の名において行われ、右行為の効果が当該会社に帰属することに問題がない(しかも、その権限踰越の行為につき善意の第三者を保護する商法二七一条二項の規定まで設けられている)のに対し、本件仮処分の場合の管理人については、その対外的行為の効果の帰属主体が不明確ないし不確定たるを免れない。終局的には、本案訴訟の結果により仮処分債権者(本件の場合は仮処分債権者たる抗告人らによつて代位される申請外川越開発株式会社)又は債務者(相手方)のいずれかにその効果が及ぶ結果となるであろうが、それまでの不明確ないし不確定は否定しえないところである。右の管理人が営業の管理を行うに当つては当然にしばしば対外的な取引行為を行うこととなろうから、右の点(特に、管理人の行為による債務について責任を負う者が不明確ないし不確定であるという点)は実際上重要であつて、第三者に不測の損害を及ぼすおそれがあるとともに、管理人がその職務を遂行するについての障害となることも考えられる。
3 要するに、本件仮処分は、債務者や第三者に多大の影響を及ぼし、関係者間の法律関係を非常に複雑化する等の難点があり、通常許容されるべき執行保全の方法の範囲を超えるものであつて、仮にそれを認めるべき場合があるとしても、真にやむをえない緊急かつ強度の必要性がある場合に限定されるべきところ、本件の場合記録にあらわれたすべての資料によつてもそのような必要性があるものと認めるに足りない。
なお、抗告人らは本件仮処分申請において、相手方による本件ゴルフ場の営業を停止し、右営業を管理人に管理させる処分を求めるとともに、右に附随して、管理人が営業収益金を確実な方法で保管し、収支計算書を毎月裁判所に提出すべきことを命ずる等の処分を求めているのであるが、骨子となる前者の処分が認められない以上、そるに附随する後者の処分を認める余地のないことは明らかである。そして、収益金の保管等について、管理人による営業の管理を前提としない別個の方法による仮処分を認めることは、抗告人らが具体的に掲げる本件仮処分申請の趣旨に沿わないところであるから、許されないものといわなければならない。
三よつて、抗告人らの本件仮処分申請を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(村岡二郎 宇野榮一郎 清水次郎)
【抗告の趣旨】
原決定を取消す。
相手方(債務者)が別紙物件目録記載の物件を使用して行うゴルフ場の営業(会員権の発行、物品の販売、その他の付帯的な営業を含む)を停止し、浦和地方裁判所川越支部執行官又は裁判所の選任する者を管理人として右営業の管理を命ずる。
右ゴルフ場営業のために相手方(債務者)が有する銀行その他の金融機関への預金の通帳及びこれに使用する届出印鑑に対する債務者の占有を解き、これを右管理人の保管に付する。
右管理人は、毎日営業による売上金を収受保管し、毎月末前月分の収支計算に基き、必要経費を控除した残額を預金、その他確実な方法で保管しなければならない。
管理人は毎月二五日までに当裁判所に対し前月分の収支計算書を提出しなければならない。
管理人は、右職務の執行を補助させるため、補助者を使用することができる。
相手方(債務者)は、右管理人の職務の執行を妨げてはならない。
管理人は右命令の趣旨を適当な方法で公示しなければならない。
との趣旨の裁判を求める。
【抗告の理由】
一 原審は、保全の必要性がないことを理由に、抗告人らの本件仮処分申請を却下する旨決定をした。
同決定書によれば、必要性の疎明がない根拠として、抗告人らが求めたゴルフ場営業の管理人選任が認められないことを挙げている。
二 ところで、本件事実関係の概要は、ゴルフ場「初雁カントリークラブ」を営業していた申請川越開発興業株式会社(以下川越開発という)が倒産したため(他に二つのゴルフ場を造設しようとして失敗したことが原因で、「初雁カントリークラブ」自体は黒字である。)同社に対する一部高利金融業者らが、相手方である有限会社「初雁カントリークラブ(後に「フェニックス」と商号を変更した)を設立し、川越開発から右ゴルフ場営業の譲渡を受け、同ゴルフ場から上がる収益金を右一部金融業者らで独占し、抗告人らを含め川越開発に対する他の債権者ら(抗告人らの債権額は合計で約一六億弱)が川越開発から何らの支払も受けられない状態になつているということである。
三 右ゴルフ場から上がる収益金は、川越開発に対する総債権者らのための支払に当てられるべきものであつて、相手方及び一部金融業者らで独占することは許されないのであるから、同収益金が金銭で他に散逸してしまう蓋然性が極めて高いことを考えれば、同収益金をどこかに管理保管しておくことが絶対的に必要であり、このための手段として抗告人らは営業管理人の選任を求めたのである。しかるに原審が営業管理人の選任が認められないという理由だけで、保全の必要性の疎明がない、すなわち同収益金の管理・保管の必要性まで否定し、本件仮処分の申請を却下したのは、判断を誤つており、全く納得することができない。
四 仮処分の方法として、必要に応じ保管人を置くことができることは、民事訴訟法第七五八条二項の定めるところであるから、ゴルフ場営業の管理人選任を求めることも許されて然るべきである。仮に仮処分の方法として、営業管理人の選任が不適当だとしても収益金の保管方法は、他にも考えられるのであるから民事訴訟法第七五八条の規定に照し原審としては、他の方法についても是非の検討をすべきところ、これに何らの思いも至すことなく本件仮処分申請を却下したのは、抗告人らの申請を不当に却下したものというべきである。
よつて原決定を取消し、申請の趣旨にそう仮処分決定を得たくこの抗告に及んだものである。